|

トノバンズ物語:加藤和彦トリビュートバンド By 平松稜大(たけとんぼ)

ロックナンバーがあればバラードが映える。バラードがあればロックがさえる。

スカートの澤部さんが歌うのはサディスティック・ミカ・バンドの「どんたく」。誰がどう考えたんだよと言いたくなるような複雑怪奇な冒頭のリフが炸裂する。

個人的には高野さんがサビの「お祭りさわぎ!」でシャウトするところが好き。サウンドは踊りながらあっちへこっちへ駆け抜けてゆくよう!このライブの最大音量はきっとこの曲だったろう。澤部さんと佐藤さんはこの日のトリであるムーンライダーズにも参加しており、大荷物かかえてひっぱりだこだ。

めずらしくMCをはさまずに、そのまま「シトロン・ガール」が始まる。なお、曲と曲の間にMCが入らないのは、ここと「光る詩」「家をつくるなら」の間だけだ。エレキ弾きながら歌うのあんまりやったことないんだよねと言いながらも、小節小節をそつなくこなしていく高野さん。「いっぱいいっぱいだった」とのことだが、ホントだろうか。声質が曲と見事にマッチしており、選曲の妙が光る。

2回し目のAメロから、スリーフィンガーのようなそうでないようなアコギのバッキングが入る。ピック弾きの12弦だろうとふんでそれに近いフレーズを弾いた僕だが、これはなかなかにスポーティーだった。それこそ「いっぱいいっぱい」だったのではないか。

デビュー当初、いいアコギを持っていなかったという高野さんは、レコーディングの時に加藤さんのD-45を借りて録音させてもらっていたらしい。いいなあ。

話は逸れに逸れるが、高野さんがリハーサルのときも含め気軽に話してくれたのが本当に嬉しかった。誰と話したらよいのか、誰が話しやすい人なのかもわからずにずっとドギマギしていたので、大変救われる思いがした。おかげでいつしか気づいたら「ねえねえ高野さんみてみて〜こんなことできますけど!」みたいなガキンチョマインドに逆戻りしてしまった。お恥ずかしい。

フェンダーのアンプがゴロゴロと運ばれてきて、ギブソンのES-335が繋がれる。スタッフの方がチューニングを終えたタイミングで舞台下手から佐野史郎さんが登場する。

リハーサルでは、初日はスーツ、2日目は皮のジャンパーにハンチングだった佐野さんだが、この日はボタンダウンのシャツにジーパンでカジュアルにきめていた。演奏するのは「オーブル街」。聴いているだけで薄曇りの空やレンガ造りの街が頭に浮かんでくるような歌詞は、この後出てこられる松山猛さんによるもの。佐藤さんのシンセで鳴らされるストリングスが非常にリアルで、機材の進歩はすごいなーなんて思っちゃったりして、僕はちゃんと集中しなさい!

佐野さんは次の日にもご自身のバンドで出演された。

「この企画をやるにあたって、この人は欠かせない。フォークル再結成のときにも真っ先に手を挙げてくれた。第4のフォークルのひとり、坂崎幸之助!」

出たあ。後半戦に入り、ついに登場したサンバイザー姿のTHE ALFEEの真ん中のひと。ペンキがとんだ模様のスリムのジーパンをはいたTHE ALFEEの真ん中のひと。きたやまさんと喋ってる…

なんてことを思いぼーっと眺めていたら、バンドの一時撤収のことを忘れてステージに取り残されてしまっていた。あわてて舞台袖に引っ込み、引き続き坂崎さんときたやまさんのやりとりを注視する。

「不思議な日」は、ラジオなどで坂崎さんが加藤さんのマネをするときに必ずといっていいほどやる曲だ。いつも最初の一節だけで終わるので、フルバージョンを歌われるところをはじめて聴いた気がする。

関連記事: columns