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トノバンズ物語:加藤和彦トリビュートバンド By 平松稜大(たけとんぼ)

加藤和彦トリビュートバンドは、トノバンズという。
誰が言い出したのかは知らないが、聞くところによると、加藤和彦氏と長年の盟友であったきたやまさんとバンマスの河合徹三さんによるところが大きいらしい。シンプルでわかりやすくて好きだ。かわいい。

河合徹三(エレキベース、バンマス)、上原ユカリ裕(ドラムス)、高野寛(エレキギター)、澤部渡(エレキギター)、佐藤優介(キーボード)、Chihana(ドブロ)、そして僕、平松稜大(アコースティックギター)。この7人がトノバンズの演奏メンバーだ。

楽屋で最終チェックをする。譜面を確認し、コーラスをあわせる。すると、今度はゲストボーカルのPETTY BOOKA、白井貴子、佐野史郎、そしてTHE ALFEEの坂崎幸之助という面々が続々と到着してくる。

そして、そのメンバーとゲストを統べる存在である北山修、さらには松山猛。
こうして役者がついに揃ったのだった。

全員集合してから「イムジン河」「帰ってきたヨッパライ」「コブのない駱駝」などを皆で練習した。こんな人々に囲まれた環境でギターを弾いて歌うなんて嘘みたいだな、とどこか現実味のない心持ちで最終チェックを進め、気づけば呼び出しがかかって皆でステージへと向かったのだった。

初夏の風がすずしい公園いっぱいにひろがる観客。会場を覗きみたときから「ここでやるのかあ」という非現実的な喜びに心がゆさぶられ、正直頭はクラクラしていた。

その後、終演後に本格的な知恵熱に苦しめられることになるのは個人的な話であるから割愛しよう。

バンドメンバーのなかで最年少だったのは僕で、その次がたぶんドブロで参加していたChihanaさん。

ハイドパークフェス、トノバンズ最初の1曲はその最年少2人で鳴らすインスト曲「スーパーガス」だった。イントロの最初の2小節は僕ひとりで鳴らす。このステージ全体でも、最初の最初の音だ。

ブルージーな進行だが、決してベタつくことのないセンスは、この収録アルバム全体に共通するおしゃれさであり、前作にくらべてグンと向上した録音技術、洗練されていった演奏に裏づけられたものにちがいないと思う。そんな楽曲のド頭を僕が任されるというのはとんでもないプレッシャーだった。

続いてきたやまさんが舞台下手から現れ、ごあいさつ。正直、緊張のあまりどんなお話をされていたのか覚えていないが、「加藤が死んで14年です。勝手にトリビュートします。文句があるなら帰ってこい」と、そういった内容だったと思う(求情報)。
それでこの曲だ。

「帰ってきたヨッパライ」
言わずと知れた名曲(迷曲?)。どうしてもザ・フォーククルセダーズの「アレ」が浮かんできてしまってリハーサルでも歌い方にずいぶん難儀したが、きたやまさんが「あーたの好きなようにバーッとやっちゃって」と仰ったので、思う存分のびのび…やれるのかとそれはそれで思案した。

これまたChihanaさんとのデュエット。2回目のAメロの「ギャー!」をやってくれてとても助かった。この曲はどれだけタガを外すか、それもわざとらしくならないかにかかっている。

構成もシンプルにみえて、とにかくこみいっている。よしんば淡々とやることはできても、どこかで突き抜けたところをお見せできなければ。はたしてうまくいったかどうかは皆さんのご感想におまかせする。

曲がおわるごとにきたやまさんはMCをはさむ。各メンバーひとりひとりにインタビューするのはご当人のアイデアだそうだ。我々が「バックをやってる人たち」で終わらなかったのはそのおかげだ。次の曲を歌われるのはChihanaさんだ。きたやまさんがインタビューをする。

2009年、かつて加藤和彦氏が組んでいたビタミンQと共演した際にドブロのギターをもらったという彼女はネタとして最高のものを持っている。僕はどうしよう。脳内はぐるぐると支配されていった。

僕の番がきた!

「どうですか」と割にざっくりとした投げかけをきたやまさんがされる。
「どうですか、ですか?ど、どうなんでしょう…」

心の言葉がそのまんま出てしまいそうだ。
何か言わなきゃ。

結果は「いや〜、今日はお日柄もよくてね、ギターの調子もとってもよいです」

このざまであった。言いたいことはたくさんあったのだが、皆飛んでいってしまった。

「今日の出演者でウィキペディアがないのは僕だけです」という絶好のネタがあったのに!

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